豊かな国ほど体外受精を利用しているのか?国の豊かさと体外受精の成功には、相関関係があるのか?について書いた Lass et al.(2019)です。
背景・仮説
体外受精の成功は様々な定義があるが、最も包括的である「出産率(delivery rate)」(採卵周期当たり)を使用しています。
国別 GDP, IVF利用度, 臨床妊娠率・出産率 |
結果
- 1人当たりGDPと体外受精の利用率には強い正の相関関係があった (ピアソン相関係数 (CC)= 0.563, p= 0.00000194)
- 利用率(人口100万人当たり採卵周期数)と臨床妊娠率、利用率と出産率との間に、それぞれ強い負の相関関係があった(CC= 0.510, p= 0.0000166; cc= -0.351, p=0.00475)
- 1人当たりGDPと臨床妊娠率、GDPと出産率の間に、それぞれ強い負の相関関係があった(CC= -0.399, p=0.0012; cc= -0.3, p=0.0179)
(出産率/採卵周期と1人当たりGDPの関係. Source: Lass et al., 2019) |
考察
また、体外受精費用に給付金を出す国の支援策によって説明できるとしています。
この研究では原因の特定には至っていなませんが、2つの観点を提示しています。
所得/支援策と患者集団の性質の違い
低所得国では、患者側の資金不足(体外受精の支援政策が無い)のため、成功可能性が高い患者だけが、自費で体外受精治療を受ける。
逆に、より裕福な国では、国の支援が充実している、または、患者が自費で負担できるため、たとえ可能性が低くても、多くの患者が体外受精を選択しているのではないかとしています。
極端な例はイスラエル(GDPランキング65か国中22 位)。
すべての女性に無制限に体外受精の医療費を給付する支援政策があります(~45歳、第2子まで)。
イスラエルは体外受精の利用率が最も高くなっています。
臨床慣行の違い
つまり、発展途上国は先進国よりも凍結胚移植(FET: Frozen embryo transfer)を行っておらず、より新鮮胚移植を行っていることになります。
また、GDPと平均移植胚数との間にも強い負の相関関係がありました(r= -0.59; p<0.000001)。
これは、豊かな国ほど、胚移植1回当たりの移植胚数が少ないことを意味します。
単一胚移植(SET: Single embryo transfer)の影響は、一部の国、特に日本、オーストラリア、ニュージーランドで実証済み。
サイクルの72%が単一胚移植であった日本では、採卵周期当たり出産率は7.9%であり、すべての国で最低ランクです。
したがって、高所得国ではより多くの単一胚移植(SET)が実施され、移植される平均胚数が少なくなっています。SETが実施された場合の妊娠率・出産率はより優れていると考えられます。
低所得国ほど、移植胚数が多いため、双生児の割合が高かった(r= -0.35; p=0.00368)ですが、早期流産率の有意な増加はありませんでした(r= -0.203; p=0.145).。
まとめ
それにもかかわらず、妊娠率、出産率、および流産率の結果測定において劣っていないことは、心強いと結論づけています。
国の豊かさは、体外受精による妊娠の成功に悪影響を及ぼさない。つまり、低所得の国でも十分なレベルの知識や技術・スキルが利用可能といえます。
研究の注意点
感想
デフォルトで「新鮮胚の2個移植です」と言われました(こちらからは何も希望伝えてない...)。
イスラエルの政策は知らなかったので、驚きました。45歳、第2子まで無制限!
宗教的、歴史的背景がそうさせているようですね(参照)。
コメント